タイトル:リズと青い鳥
監督:山田尚子 脚本:吉田玲子 音楽:牛尾憲輔
キャラクターデザイン:西屋太志
キャスト:鎧塚みぞれ/種﨑敦美、傘木希美/東山奈央、リズと少女/本田望結 他
配給:松竹 公開日:2018年4月21日 上映時間:1時間30分
北宇治高等学校吹奏楽部でオーボエを担当する鎧塚みぞれと、フルートを担当する傘木希美。高校三年生の2人は、最後のコンクールを迎えようとしていた。その自由曲に選ばれたのは、『リズと青い鳥』。この曲には、オーボエとフルートが掛け合うソロがあった。“なんだかこの曲、わたしたちみたい”と屈託なく語り、嬉しそうにソロを演奏する希美と、一緒に過ごす日々に幸せを感じながらも、終わりが近づくことを恐れるみぞれ。親友のはずの2人だったが、オーボエとフルートのソロは上手く噛み合わず、距離を感じさせるものだった……。
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前作にあたる『響け!ユーフォニアム ~届けたいメロディ~』にて、『リズと青い鳥』の予告が流れました。そのときの印象では、今までとは違って幻想的な作風になるのかと思っていたのですが、『リズと青い鳥』という物語が合間に挿入される形がとられている以外は、案外いつものユーフォなのでした。キャラクターデザインに違いはあれど、それほど気にはならないはず。とはいえ、監督を務めたのが山田尚子監督。冒頭の登校から朝練の一連の流れ。本来であれば長尺で描かれることのない日常が、これでもかと丁寧に描かれていて、監督の色が初っ端から感じられたのでした。(初っ端から、いつもながらの監督のフェチズムに溢れている映像だと真っ先に思ってしまったのは、自分の心が汚れているからだろうか?)
物語の焦点は、みぞれと希美に。元々の主人公である黄前久美子ら2年生組はほとんど出てこず、サブキャラクター扱い。高坂麗奈が唯一物語に絡んでくる程度でした。麗奈の役割は実は大きく、みぞれと希美によるオーボエとフルートのソロがうまくいかないことについて、みぞれにだけ話をするという役回り。これは、2人の相性が悪いのではなく、そもそも実力差があり、みぞれが希美の実力に合わせてしまって本来の力を発揮していないことを明らかにさせたのでした。しかし、そのことに後から気付く自分はつくづく鈍感。
本作のタイトルになっている『リズと青い鳥』。前述したとおり、合間合間にこの物語が挿入されるのですが、リズと少女、みぞれと希美を対比する要素となっています。さらには、本編がリアリティな世界だけに、このファンタジックな別世界が加わることで、アクセントを与え、1つの作品として単調なものにさせない重要な要素ともなっていました。リズと少女、2役を演じるのは本田望結さん。子役でありフィギュアスケート選手でもあるという彼女ですが、そういった多面性があるからこそオファーされたのかなと勝手に思ったのですが、実際はどうなのやら。
主人公が口数少ないみぞれなので、全編を通して台詞は少ないのですが、観ていて疲れる作品でした。短い言葉に込められた感情やちょっとした仕草から、キャラクターたちの心の奥底にある想いを読み解きながら観ますと、上映時間が90分しかない映画なのですが大変長く感じられました。表立った情報量は少ないのだけれども、裏にはめいいっぱいの情報が隠されている。観方によっては、30分でまとめられる内容が冗長になっていて、つまらないと評されるでしょうし、むしろ何度でも映画館に足を運んで、丁寧に描かれたキャラクターたちの心の機微をできるだけ汲み取りたいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。ストーリーそのものを追うか、キャラクターたちの感情を追うかでガラリと変わる90分間。自分の場合は自然とキャラクターたちの感情を追い続けていたので、少々疲れてしまったものの、濃密な90分間となりました。
MOVIX京都での上映後舞台挨拶付上映で観たのでその時のレポートを。メインキャストである、鎧塚みぞれ役種﨑敦美さん、傘木希美役東山奈央さん、リズと少女の2役を演じられた本田望結さん。そして、山田尚子監督が登壇されました。本田さんは京都生まれながら、京都でこういう場に登壇するのは3回目ぐらいとのこと。舞台挨拶については初めてだそうで、山田監督はその初めてを奪ったことに対して嬉しそうにしていました。東山さんは前乗りで関西に来られ、ホテルで原作本を読まれたそうです。そこで、関西弁で話す希美に驚きを感じたとのこと。原作は関西弁なので、アニメから入ると違和感を感じるのも無理はありません。東山さんが希美の声を脳内再生されたそうですが、やっぱり似非な感じになってしまうのでしょうか。種﨑さんはいつもながらの、しどろもどろなご挨拶。対して、隣にいた本田さんがしっかりしたご挨拶をされ、好対照なお2人でした。本田さんが妙に恐縮されていたのが印象的で、それほどアニメのお仕事をされてないでしょうし、異なる世界に挑戦するというか、おじゃました感覚があったのかもしれません。
自身が演じたキャラクターの好きなシーンはという質問に、まずは種﨑さんが答えることに。すると、自身の演じたキャラについて答えるのは難しいらしく、希美のシーンだったら答えられると話され、東山さんからの提案で、種﨑さんは希美、東山さんはみぞれの好きなシーンを答えられました。
種﨑さんが好きなシーンは、希美の後ろ姿。全編を通して、みぞれと希美が2人で歩くシーンがありますが、いつもみぞれは希美の後を追っていました。山田監督からはその希美の立ち姿、歩き方はバレエを参考にしたとの話が。その話をされている最中、東山さんが歩き方のジェスチャーをされていました。この後ろ姿については、種﨑さんも好きな友達の後ろを歩いていたそうで、後ろ姿を見ていたい気持ちがあったとのこと。役とシンクロする面があったのだなと、興味深い話が伺えました。
東山さんが好きなシーンは、希美のフルートの反射光がみぞれに当たるシーン。光を当ててじゃれあうひとときが、希が姿を消して急にお終いになる。学生時代の日常に、こういった何気ないやりとりが実際にあるものの、それをアニメーションとしておこすのかと感嘆されていた東山さん。山田監督の話では、ここさえ上手くいけばというほど重要なシーンだったそうです。
本田さんについては、のぞみと希美のように演技の掛け合いではなく、先にリズの音声を撮ってから、自身が演じたリズの声を聞きながら、少女として演技されたことが話されました。声優さんであれば、アフレコ現場に全員揃っていなくても、抜き撮りは当たり前でしょうが、本田さんにとってはなかなか無い経験だったのでは。
ここで突然始まった種﨑さんの本田さんへの質問コーナー。この為にわざわざ台本を持参されていました。まずは、リズと少女を演じるときに何を考えていたのかという質問。これには、相手のことを想いながら演じていたと回答。この回答に種﨑さんは納得のご様子。さらには、少女がすすり泣きながら扉に向かっていくシーンはアドリブであったと、本田さんのアフレコ話が聞けました。このアドリブのシーンをやり終えた後、本田さんは監督が細かい演技指導してくれるかと思いきや、監督は褒めるばかりだったそうです。
種﨑さんや山田監督が最後の挨拶の際に話されていたのが、静かだけれどもうるさい作品であるということ。これは、自身の感想に戻るのですが、キャラクターの感情を読めば読むほど、声を発しているわけではないのに、いろんな想いが聞こえてくるということ。2度3度と見直すことで、新たな発見がありそうな非常に情報量が多い作品。情報量といっても、勝手にこちらが感じ取るだけなのですが、うるさく感じるほどの想いをいずれまた感じ取ってみたいと思います。