輝きが向こう側へ!

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【ネタバレ・感想】映画館を出て、改めて気付かされた70年後の日常『この世界の片隅に』

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 親が広島生まれで、自分自身も生まれは広島なので、第二次世界大戦時の広島を舞台にした作品は、他人事に思えず、あえて避けてしまうのですが、『この世界の片隅に』は、これまでのものとはアプローチが違うものではないかと思いまして、観てみる事にしました。

 

タイトル:この世界の片隅に
監督・脚本:片渕須直
キャラクターデザイン・作画監督:松原秀典
音楽:コトリンゴ
キャスト:北條すず/のん、北條周作/細谷佳正 他
配給:東京テアトル 公開日:2016年11月12日 上映時間:2時間6分

昭和19年、18歳の少女・すず(声:のん)は生まれ故郷の広島市江波を離れ、日本一の軍港のある街・呉に嫁いできた。戦争が進み様々な物が不足していく中、すずは工夫をこらして食事を作っていく。やがて日本海軍の根拠地であるため呉は何度も空襲に遭い、いつも庭先から眺めていた軍艦が燃え、街は破壊され灰燼に帰していく。すずが大切に思っていた身近なものたちが奪われていくが、日々の営みは続く。そして昭和20年の夏を迎え……。

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■『笑い』によって作品の世界に入りやすい作りに

 戦争を中心に描いている物語ではなく、主人公である『すず』という女性の日常を描いた作品。絵を描くことが好きで、のんびりとした性格。世が世ならば、ゆるふわ系で幸せに溢れた作品の主人公だったかもしれません。しかし、時代は第二次世界大戦の真っ只中。彼女の日常に戦争が介入してきたのでした。とはいえ、決して暗いだけの話ではなく、戦時中であっても、すずの、のんびりした性格から生まれた面白ハプニングが時折挟まれ、劇場に笑いが起きていました。まさかこの作品で、加藤茶さんの天秤棒芸が見られるとは思いもせず。辛くて悲しいだけでなく、日常に起こりうる『笑い』が随所に見られました。この『笑い』によって、登場人物に親近感を覚えて、作品の世界に入りやすい作りとなっています。

 戦況が過酷になるにつれて、配給が少なくなり、空襲の回数も増えていきます。すずの精神面もボロボロに。これには、この戦争に終わりがくることを知っているだけに、早く戦争が終わってくれと思いながら観ていました。そして広島に投下された原子爆弾。爆心地から離れていることもあって、きのこ雲が見えたという描写に留まっていました。祖母が瀬戸内海の島暮らしでしたので、そこからでも、きのこ雲は見えたと母親から伝え聞いた事を思い出しました。遠くからでは惨状は分からず、大きなきのこ雲が、ただただ不気味に見えていたことでしょう。

 観終わった後に、悲しさの余韻だけでなく、これからの歩みも感じさせてくれる終わり方。残酷なシーンもあるにはあるのですが、できるだけ直接的なシーンにせずに、心象描写で描かれているので、この手の作品が苦手な方でも観られるのではないかなと思います。それでも、観ていて辛いシーンがあるのは確か。しかし、非常に丁寧な作りで、歴史を伝える、当時の人たちの生活を伝える良い作品であるのも確か。積極的にはオススメできないところが難しいところであります。


■70年前の広島の街並みや人の営みを再現

 70年前の広島が舞台。当時の町並みや、人の営みをアニメで再現。もちろん、空襲でその町並みは今に残っていませんので、過去の資料や当時を知る方の声を基に再現されたものです。既に70年も経っていますので、これが正解と分かるものでもないのですが、丁寧に再現されているのだろうなと感じさせるものでした。当時の当たり前が、当たり前のこととして描かれていますので、一升瓶に棒を突っ込んで何をしているのかな?と思う方もいたのでは。これは玄米を精米しているのです。親子で観に来られた場合、お子さんが何なのかと疑問を覚えたときに、親が教えるという会話が生まれれば、当時を知れる切欠となるのだろうなと思うと同時に、親も分からないというパターンが結構あるんじゃないかとも思うのでした。遊郭については、あえて分からないと通すパターンもありそうな…。



■キャストについて

 主役の『すず』役は、のんさん。連続テレビ小説『あまちゃん』の主人公を演じられていた能年玲奈さんなのですが、その『あまちゃん』を観ていないので、彼女の演技に触れるのは、今回が初めてに近い状況。本職の声優さんが多くキャスティングされているの中で、どうなのかと思っていましたが、彼女の素朴な演技が役にとてもあっていたように感じました。単にあっているというよりは、役に入り込んでいたというか。若さを感じさせる演技になるかと思いきや、自身より年上の女性を表現できていたことに驚き。彼女の感性の良さが成せるものなのでしょうかね。彼女の今における事情はさておき、この役に成れる感性の良さは、今後も見てみたいものです。

 原作の台詞が方言であっても、作品によっては、分かりやすさ重視で方言を標準語に変えてしまうことがあるのですが、この作品は広島弁で通されています。訛りが強い台詞は、少々聞き取りづらかったでしたが、当時を正しく再現するには方言を抜きにしてしまうことはできないでしょう。キャストの中では、細谷佳正さん、新谷真弓さん、佐々木望さんが広島出身。本編中で細谷さんの声を聴いて、そういえば尾道市出身だったなと思い出し、納得のキャスティングでありました。本編とは直接関係ないところですが、京田尚子さんが、昔と変わらずおばあさん役としてお声が聴けたのが、うれしかったり。



■映画館を出て、改めて気付かされた70年後の日常

 映画を観終わり、具体的に説明できる感想が思い浮かばないまま、帰りの電車に乗るため、映画館(シネリーブル梅田)から大阪駅へと向かいました。ライトアップされて、きらびやかな大阪駅が見えてきましたら、一気にこの映画に対する想いが廻り始めました。ひとつの明かりが灯るだけで幸せを感じていた先ほどまでとは全く違う、あたり一面が光に包まれている光景に対して、「うわあああああああ!!!」と心の中で叫んでしまいました。いつの間にやら70年前にタイムスリップしていて、急に現代に戻ってきたような感覚。今という時の裕福さや平穏な日常に改めて気付かされたのでした。頭の中では分かっていても、この平和を当たり前の様に享受してしまっているということ。この気付きは、70年前をきっちりと描いていたからこそ感じられたものなのではないでしょうか。あの時代から70年後の日常に戻ったときに、ふと感じられるものがあると思います。その気付きを忘れずに。

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